Cubase曲【Rainy Orchestra】ベタ打ち修正編

Cubase曲「rainy orchestra」ベタ打ち修正編

Cubaseで最初に作った曲「rainy orchestra」。当時は低スペックPCで、しかもベロシティ設定にはほとんど手をつけないまま書き出していました。今のPC環境と経験を活かして、この曲を一から見直してみることにしました。

なぜ今さら最初の曲を直すのか

「rainy orchestra」はバイオリン、チェロ、コントラバス(Wベース)、クラリネット、ピッコロ、フルート、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバ、ティンパニ、チャイム、シンバルという13パート編成のオーケストラ曲です。BBC Symphony Orchestraの音源を使っていますが、作った当時は「音が鳴ればOK」という感覚で、ベロシティはほぼ一定、タイミングもクオンタイズしたまま。いわゆる「ベタ打ち」の状態でした。

久しぶりに聴き返すと、フレーズの起伏がなく、金管も打楽器も棒読みのような鳴り方。せっかくの音源のポテンシャルを活かしきれていないのがもったいなく感じ、今回パートごとに腰を据えて調整することにしました。

改修の3本柱

今回の調整は、大きく分けて3つの観点で進めました。

  • ① Velocity / Length / Position(Humanize)―「人が弾いている感じ」を作るための基本調整
  • ② Hall(リバーブ)設計―PRE-DELAYで楽器ごとの前後の距離感を作る
  • ③ 楽器ごとの個別調整―弦・木管・金管・打楽器でそれぞれ異なる方針を立てる

この3つを順番に、そして行き来しながら詰めていきました。以下、パートごとに具体的な調整内容を紹介します。

弦楽器の調整

この曲の弦楽器は、メロディを担当させず、ハーモニーを付けることを意識して作っています。バイオリンはコードの動きに合わせて、3度、5度、ルート、7度と音を少し意識して動いている部分があります。チェロは3度くらいの音使いを中心に、ベースはトニックを土台にしています。メロディは持たせていませんが、曲の雰囲気を作るうえでバイオリンの動きはとても重要だと自分では感じているので、その動きがきれいに聴こえるよう、次のような調整を進めていきました。

バイオリン

バイオリン Key Editor ベロシティレーン(修正前)
修正前
バイオリン Key Editor ベロシティレーン(修正後)
修正後

まず手をつけたのがバイオリンです。ベロシティは65〜95の範囲で揺らぎをつけ、同じ音が続く箇所には±5〜8の自然な揺れを加えました。コードの色合いが動く部分(赤ノート)は伴奏的な部分(青ノート)より5〜10ほど高めに設定し、フレーズの中で「弱→強→弱」の山を意識しています。

タイミングも、伴奏はクオンタイズ強度85〜95%でしっかり安定させる一方、動きのある部分は70〜80%に緩め、フレーズの頭を少し早め(-3〜-6ティック)、終わりを少し遅め(+3〜+8ティック)にすることで、自然に流れるような揺れを作りました。ノート長も(Cubaseの長さ表示で)「4拍は0.1.3.108〜112」「2拍は0.1.3.102〜106」というように、長さの階段を揃えることを意識しています。

チェロ

チェロ Key Editor ベロシティ/Length(修正前)
修正前
チェロ Key Editor ベロシティ/Length(修正後)
修正後

チェロはバイオリンよりサスティンが長いため、長さは全体的に少し長めが基本です。全音符なら0.1.3.112〜118、付点2分音符なら0.1.3.118〜122といった具合に、音価ごとに最適な長さを決めていきました。

揺らぎ(Humanize)はPositionのみを動かし、Lengthは変更しないというルールを徹底しました。下降ラインの多い7〜8小節・15〜16小節では、1音目から4音目にかけて+3→+4→+5→+5と段階的に揺れを大きくし、逆にロングトーンやエンディング(35小節)は揺らぎをほぼゼロにして透明感を残しています。

コントラバス

ウッドベース Key Editor ベロシティ/Length(修正前)
修正前
ウッドベース Key Editor ベロシティ/Length(修正後)
修正後

コントラバスは低音が揺れると濁りやすいため、ベロシティ・タイミングともに揺らぎは最小限に留めました。バイオリンやチェロと比べても、いちばん「動かさない」パートです。

木管楽器の調整

クラリネット Key Editor(修正前)
修正前
クラリネット Key Editor(修正後)
修正後

木管では、クラリネット、フルート、ピッコロの3つでメロディを奏でています。3つともトゥッティのようにほぼ同じフレーズを演奏し、ピッコロだけはオクターブ上で吹くことで、少し引き立つ位置づけにしています。弦楽器はハーモニーに徹しているので、この曲のメロディは木管の役割です。

クラリネットは「木管らしい息のニュアンス」を意識し、ベロシティは均一にならないよう70〜85前後で調整。揺らぎはストリングスより少し強めに設定しました。特にテンションコードが続く21〜24小節は+3〜+4と、他の区間より強めに揺らして木管の呼吸感を出しています。逆にロングトーンや高音の跳躍部分は揺らぎを弱め、エンディングの33〜34小節はほぼ揺らさずに透明感を保つようにしました。

フルートやピッコロも、クラリネットと同じ考え方で、Length倍率(×1.00〜1.02程度)とPositionの微調整のみで自然な吹奏感を出しています。

金管・打楽器の調整

金管では、17小節目からエンディングまで、トランペットとホルンが木管と同じトゥッティのフレーズを演奏しています。ハーモニーはエンディングを除いて2声にしました。エンディングの2小節前は、少しこだまのように響くフレーズにしています。トロンボーンは24小節目までトランペットと同じようなフレーズをオクターブ下で演奏して音を支え、25小節目からはハーモニーを担当するようにしました。チューバは曲が盛り上がる25小節目から低音で全体を支える役割で登場させています。

トランペット

トランペット Key Editor(修正前)
修正前
トランペット Key Editor(修正後)
修正後

トロンボーン

トロンボーン Key Editor(修正前)
修正前
トロンボーン Key Editor(修正後)
修正後

チューバ

チューバ Key Editor(修正前)
修正前
チューバ Key Editor(修正後)
修正後

金管は曲が進むにつれてベロシティを段階的に上げていくのがポイントです。トランペットは75〜94、トロンボーンは区間ごとに70〜86、チューバは68〜82というように、クライマックスに向けて音量感が積み上がっていくよう設計しました。

ティンパニ

ティンパニ Key Editor(修正前)
修正前
ティンパニ Key Editor(修正後)
修正後

チャイム

チャイム Key Editor(修正前)
修正前
チャイム Key Editor(修正後)
修正後

シンバル

シンバル Key Editor(修正前)
修正前
シンバル Key Editor(修正後)
修正後

打楽器も同じ考え方です。ティンパニは78〜96、シンバルは25小節以降で82→88→92→100と段階的に強くし、クライマックスの締まりを作っています。ただしLengthは短め(×0.80〜0.90程度)に設定し、余韻を残しすぎないようにしました。 シンバルは、金管が鳴るタイミングでアクセントとして際立たせたい箇所を狙って強めに配置しています。チャイムは金管を陰で支えるようなアシスト的な響きを意識しつつ、曲の最後だけは逆に前に出し、余韻がホールに残っていく中でチャイムの存在感がしっかり感じられるように仕上げました。

Hall(リバーブ)とパンで距離感・広がりを作る

ベロシティやタイミングだけでなく、「楽器がどのくらい手前・奥にいるか」「ステージ上のどこにいるか」もオーケストラらしさを左右する重要な要素です。今回はCubase付属のREVerence(プリセット「Japanese Concert Hall SR」)を使い、PRE-DELAYの異なる3つのFXチャンネル―Hall Near(25ms)/Hall Mid(15ms)/Hall Far(8ms)―を用意し、パートごとに送り先を振り分ける方法を採用しました。

同じホールの音色を保ったまま送り先だけを変えることで、前列(弦・ピッコロ・フルート)はHall Near、中列(チェロ・クラリネット・ホルン)はHall Mid、後列(金管・打楽器)はHall Farへ、というように自然な前後感が生まれます。あわせてパン(左右配置)とフェーダーバランスも詰め、最終的なMixConsoleは以下のような設定に落ち着きました。

MixConsole 全体パンニング設定
MixConsole 全体パンニング設定
パート パン フェーダー Send先 Sendレベル
バイオリンL40-6.0dBHall Near-12.0dB
チェロR25-4.0dBHall Mid-14.0dB
コントラバス(Bass)R35-2.0dBHall Far-8.0dB
クラリネットR10-5.0dBHall Mid-12.0dB
ピッコロL25-10.0dBHall Near-14.0dB
フルートL20-7.0dBHall Near-14.0dB
ホルンL30-5.0dBHall Mid-9.0dB
トランペットR30-3.0dBHall Far-10.0dB
トロンボーンR35-2.0dBHall Far-8.0dB
チューバR15-1.0dBHall Far-8.0dB
ティンパニL10-3.0dBHall Far-12.0dB
チャイムR40-8.0dBHall Far-12.0dB
シンバルL35-6.0dBHall Far-12.0dB

Send LEVELは「前列は少なめ、後列は多め」を出発点にしつつ、固定ルールにはせず実際に音を聴きながら微調整しています。たとえばチャイムやシンバルは音自体の存在感が強いため、後列に合わせてHall Farへ送りつつSendレベルは抑えめの-12.0dBにするなど、楽器の性格に応じて数値を崩している箇所もあります。PRE-DELAYと送り先だけで距離が決まるわけではなく、フェーダーの音量差・パンの位置・音色との組み合わせで初めて自然な奥行きと広がりが生まれる、というのが今回いちばんの学びでした。

豆知識コラム:Hall Near/Mid/Farの違い、ちゃんと聴き分けられていますか?

今回のようにPRE-DELAYの異なる3系統のリバーブを送り分けても、それを聴き分けられるモニター環境がなければ「なんとなく奥行きが出た気がする」で終わってしまいます。特にノートPC内蔵スピーカーやコンシューマー向けイヤホンは低域から中域にかけての解像度が甘く、Hall MidとHall Farの差、パンの微妙な位置関係が潰れて聴こえがちです。

宅録・DTM環境では「作業用のモニターヘッドホン」と「部屋で聴くモニタースピーカー」を用途で使い分けるのが定番です。以下、それぞれ代表的なモデルを挙げておきます。

モニターヘッドホン

  • audio-technica ATH-M50x―定番のスタジオモニター。中低域がしっかり出るため、チェロやコントラバスなど低域パートの距離感チェックに向いている
  • SONY MDR-CD900ST―国内スタジオの標準機。中域の解像度が高く、パン位置やクラリネット・ホルンなど中域楽器の定位確認に強い

モニタースピーカー

  • YAMAHA HS5―フラットな特性の定番モデル。ヘッドホンでは分かりにくい部屋鳴りやステレオ幅を含めた「広がり」の確認に
  • KRK ROKIT 5 G4―低域の量感がありつつ視覚的にもモニタリング状況が分かりやすいLEDディスプレイ付き

ヘッドホンで細部のパン・定位を追い込み、最後にスピーカーで全体のバランスと空間の広がりを確認する―この行き来ができるようになると、Hall Near/Mid/Farのような送り分けの効果もぐっと実感しやすくなります。

改修してみての感想

DTM Mixing Log

雨のオーケストラ — Before / After

Cubaseで打ち込んだオーケストラMIDIに、ベロシティ・タイミング・ダイナミクス・パンの調整とホール・リバーブ設計を加えた、ミックス前後の聴き比べです。

ミックス前後の波形比較
波形比較 — 上段: Before / 下段: After(ダイナミクスの密度と粒立ちの変化)
01 Before

打ち込みのベロシティのみ、リバーブ設計前の状態。

02 After

13パート個別調整とHall Near/Mid/Farの3系統センド後。

主な変更点

  • ヒューマナイズ — 全13パート(Vn, Vc, Wベース, Cl, Picc, Fl, Hrn, Tp, Trb, Tuba, Timp, Chimes, Cym)のベロシティとタイミングを個別に調整。
  • 空間設計 — Hall Near / Mid / Far の3系統FXチャンネルをPRE-DELAY違いで用意し、パートごとにセンド量・パン・フェーダーを最終決定。
  • 残タスク — CC11(エクスプレッション)とビブラートの微調整で仕上げ予定。

ここまでの調整で、以前は平坦だったフレーズに自然なうねりが出て、金管・木管・打楽器のアタックにもメリハリがつきました。Hall Near/Mid/Farへの送り分けとパン配置によって、ステージの奥行きと左右の広がりも生まれ、以前は団子状態だった音が、ちゃんと13パートそれぞれの居場所を持って鳴るようになりました。クライマックスの締まりや、エンディングの余韻の美しさも、当時とは別の曲のように感じます。何より「ベタ打ち感」が完全に抜けたのが大きな変化でした。

今後の課題

ベロシティ・タイミング・長さの調整、Hall送りとパン・フェーダーバランスまで一通り終え、ミックスはほぼ最終段階まで来ました。残っているのはCC11(Expression)でフレーズの息づかいをさらに足すことと、ライブラリのビブラート量の微調整くらいです。ここまで来ると、あとは書き出して何度も聴き返しながら耳で追い込む仕上げの段階です。

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