ロジカルエディターでヒューマナイズ

前回の記事「Cubase曲【Rainy Orchestra】ベタ打ち修正編」では、13パートのベロシティ・タイミング・長さを個別に調整した内容をまとめました。

その作業で、いちばん頻繁に使ったのがロジカルエディターです。13パートのノートを1音ずつ手で直すのは大変ですが、ロジカルエディターなら「どのノートを」「どう変えるか」を指定して、まとめて変更できます。

この記事では、rainy orchestraの修正で実際に使った次の3つの操作を、パートごとの数値の実例つきで紹介します。
  • ベロシティのランダム化
  • Position(開始位置)の加算
  • Length(音の長さ)の倍率変更

ロジカルエディターとは

ロジカルエディターは、MIDIノートを条件で絞り込み、その対象にまとめて変更を加える機能です。Cubase ProのMIDIメニューから開きます。

画面は大きく2つの部分でできています。

イベントターゲットフィルター(どのノートを)
位置・長さ・ベロシティ・音程などの条件で、変更する対象を絞り込みます。たとえば「7〜8小節目のノートだけ」「長さが8拍のノートだけ」といった指定ができます。
イベント変換アクション(どう変えるか)
絞り込んだノートの、どの項目(ベロシティ・Position・Lengthなど)を、どんな方法(加算・倍率・ランダム値など)で変えるかを指定します。
ロジカルエディターの全体画面。上がイベントターゲットフィルター、下がイベント変換アクションの位置を示している
ロジカルエディターの画面。上がイベントターゲットフィルター、下がイベント変換アクション

設定欄の読み方

ロジカルエディターで初心者がいちばん迷うのが、数字を入れる場所です。画面には「値2」「パラメーター1」「パラメーター2」と、似た名前が並びます。ここでは、画面の下半分(イベント変換アクション)の読み方を整理します。

実行対象(何を変えるか)
変更する項目を選びます。この記事では「値2」(ベロシティ)、「ポジション」、「長さ」を使います。
操作(どう変えるか)
「足す(+)」「掛ける(×)」「次の範囲で相対ランダム値を設定」など、変え方を選びます。
パラメーター1・パラメーター2(どれだけ変えるか)
操作に使う数字を入れる欄です。足す数、掛ける倍率、ランダムの範囲などを入れます。操作によっては、パラメーター2を使わないものもあります。
「値2」と「パラメーター2」は別のものです 「実行対象」に出てくる「値1」「値2」は、ノートのどの項目を変えるかを表します。ノートの場合、値1は音の高さ、値2はベロシティです。数字を入れる欄は、別にある「パラメーター1」「パラメーター2」です。ベロシティを変えたいときは、実行対象に「値2」を選び、数字はパラメーターの欄に入れます。

この記事で使った3つの操作を、画面の設定のとおりに並べると次のようになります。

やりたいこと実行対象操作パラメーター1パラメーター2
ベロシティを揺らす値2次の範囲で相対ランダム値を設定-55
開始位置をずらすポジション足す(+)0.0.0.1PPQ(表示のまま)
長さを短くする長さ掛ける(×)0.9000使わない

ポジションや長さのように、時間を扱う項目では、パラメーター2に「PPQ」と表示されます。パラメーター1の時間の値を、ティック(4分音符を480に分けた単位)を基準に読むための指定と考えてください。この記事では表示のまま使っています。長さに倍率を掛けるときは、パラメーター2は空欄のままです。

ベロシティの「相対ランダム」とは

「相対」とは、元の値からのずれ幅を指定するという意味です。パラメーター1に-5、パラメーター2に5を入れると、音ごとに-5〜+5のランダムな数が、今のベロシティに足されます。たとえば元のベロシティが70の音は、65〜75のどれかになります。

元の値を置き換えるわけではないので、曲の強弱(山や谷)は残ったまま、音ごとの細かな揺らぎだけが加わります。

Positionの数字の読み方

Positionの「0.0.0.1」は、「小節.拍.16分.ティック」の順に並んだ表示で、いちばん右の1がティックです。つまり「+1ティック」という意味になります。

1拍は480ティック(Cubaseの初期設定)で、テンポ120なら1ティックは約1ミリ秒です。この記事で使った数字は-6〜+8ティック程度で、ごくわずかなずれだと分かります。

Lengthの数字の読み方

Lengthの「掛ける(×)」で0.9000と入れると、ノートの長さが9割になります。

長さを直接入力するときも、Positionと同じ「小節.拍.16分.ティック」の形で表示されます。次の表は、読み方の例です。

音価入力例計算(1拍=480ティック)
4分音符(1拍)バイオリン0.0.3.119360+119=479ティック(480より1短い)
4分音符(1拍)金管0.0.3.68360+68=428ティック(480より52短い)
2分音符(2拍)0.1.3.108480+120×3+108=948ティック(2拍=960より12短い)
付点2分音符(3拍)0.2.3.115960+120×3+115=1435ティック(3拍=1440より5短い)
全音符(4拍)0.3.3.1081440+120×3+108=1908ティック(4拍=1920より12短い)
5拍1.0.3.1001920+120×3+100=2380ティック(5拍=2400より20短い)

どの例も、音価ぴったりの値より短くしてあります。短さの度合いは、パートや使い方で変えました。バイオリンは数ティックだけ、金管の4分音符は約9割と、金管のほうが大きく区切っています。次の音との間に切れ目ができて、音が自然に区切られます。

長さは、最後の桁だけでなく、すべての桁を合計したティック数で比べます。

設定が済んだら、下のプルダウンは「変換」のまま、「適用」ボタンを押します。

操作① ベロシティのランダム化

ベタ打ちのいちばんの特徴は、ベロシティがほぼ一定なことです。そこで、今あるベロシティにランダムな数(たとえば-5〜+5)を足し引きして、「人が弾いている」揺らぎを作りました。元の値を置き換えるのではなく、元の値からのずれ幅を指定します。

実例として、各パートの仕上がりの目安は次のとおりです。

  • バイオリン:65〜95の範囲で揺らぎをつけ、同じ音が続く箇所は±5〜8の自然な揺れ
  • クラリネット:70〜85前後。木管らしい息のニュアンスを意識
  • トランペット:75〜94。曲が進むにつれて段階的に上げる
ベロシティをランダム化する設定画面。バイオリンのパートでの設定例
ベロシティのランダム化の設定例

ランダム化だけでは、フレーズの山(盛り上がり)までは作れません。バイオリンでは、動きのあるオブリガート(主旋律に添える飾りの旋律)を伴奏より5〜10高く設定して「弱→強→弱」の流れを作りましたが、この部分は小節範囲を絞ってから、ベロシティを加算する方法で調整しました。

操作② Positionの加算

Positionは、ノートの開始位置です。クオンタイズしたままだと、すべての音が拍の頭にぴったり揃ってしまいます。そこで、開始位置を数ティックだけずらして、自然な「ため」を作りました。基本は後ろにずらし、バイオリンのフレーズ頭だけは少し前にずらしています。

ウッドベースは、ロジカルエディターで一括処理しています。ロングトーンの開始位置を+1に統一しました。低音は揺れが大きいほど濁りやすいので、ずらしは最小限にしています。短い下降ラインの音だけは別の条件で絞って、+2〜+3を加算しました。

Positionに+1を加算するロジカルエディターの設定画面。ウッドベースでの設定例
Positionに+1を足す設定例

一方、チェロの下降ラインは、音ごとに揺らぎを少しずつ大きくしたかったので、ロジカルエディターではなく手動で調整しました。

場所1音目2音目3音目4音目
チェロ 7〜8小節、15〜16小節(下降ライン)+3+4+5+5
チェロ 21〜24小節、31〜32小節+2+3+4+4

チェロでは、「揺らぎはPositionだけを動かし、Lengthは変更しない」というルールを徹底しました。Lengthを変えると音価が崩れてしまうためです。

操作③ Lengthの倍率変更

Lengthは、ノートの長さです。音源によっては、長さが同じままだと音がつながりすぎたり、余韻が残りすぎたりします。長さに倍率をかけることで、パートごとの性格に合わせて調整しました。

  • ティンパニ・シンバルなどの打楽器:×0.80〜0.90。余韻を残しすぎないように短めに
  • フルート・ピッコロ:×1.00〜1.02程度。ほぼそのままで、自然な吹奏感だけ足す
Lengthに倍率をかけるロジカルエディターの設定画面。打楽器のパートでの設定例
Lengthの倍率変更の設定例

ただし、弦楽器の音価ごとの長さ(バイオリンの全音符なら0.3.3.108〜112など)は、倍率ではなく、音価ごとに目標の長さを決めて揃えました。倍率が向いているのは、全体を同じ割合で短く(長く)したいときです。

パート別の使い分け

3つの操作をパートごとにどう使い分けたかを、表にまとめました。

パートベロシティPosition(揺らぎ)Length
バイオリン65〜95、同音連続は±5〜8動きのあるオブリガートは、フレーズ頭を-3〜-6、終わりを+3〜+8(頭は少し早め、終わりは少し遅め)音価ごとに長さを揃える
クラリネット70〜85前後+2〜+3(テンション区間の21〜24小節は+3〜+4、ロングは+1)ほぼそのまま
チェロロングは一定、下降ラインは弱め下降ライン +3〜+5、ロングは0〜+1揺らぎをつけるときは動かさない。音価ごとの長さ調整は別に行った
ウッドベース控えめ+1に統一、短い下降ラインのみ+2〜+3ロングは濁らない範囲で長め
金管(トランペットなど)75〜94など、曲の進行に合わせて段階的に上げる+1〜+44分音符は0.0.3.68(約9割)に短くして音の間に隙間を作った。フレーズごとに調整
打楽器(ティンパニ・シンバル)ティンパニ78〜96、シンバルは82→100と段階的になし×0.80〜0.90で短めに

この表を並べてみると、低音のウッドベースは、ずらしを最小限にとどめています。「低音は揺らぎを小さくする」というのが、今回の修正でいちばん大きな方針でした。低音が揺れると、音が濁って聴こえやすくなるためです。

設定をプリセットに保存して再利用する

ロジカルエディターには、設定をプリセットとして保存する機能があります。今回は、ベロシティの設定を「Velocity ±5 Random」という名前で保存しました。このように名前をつけて保存しておけば、次の曲でもすぐに呼び出せます。

ベロシティのプリセット保存画面 ベロシティのプリセット呼び出し画面
設定をプリセットとして保存(左:保存画面/右:呼び出し画面)

つまずきやすいポイント

同じ操作を重ねがけしない ロジカルエディターは、適用ボタンを押すたびに変更が積み重なります。Positionを+3する設定を2回適用すると、+6になってしまいます。ベロシティの相対ランダムも同じで、2回適用するとずれ幅が最大±10に広がります。適用は1回だけにして、やり直したいときは、元に戻す(Undo)で戻してからもう一度適用しましょう。
  • 適用前に、対象になるノートを確認する:イベントターゲットフィルターで範囲を絞っていても、意図しないノートに効いていないか、適用前に確認すると安心です。
  • クオンタイズは別の機能:バイオリンで使った「クオンタイズ強度85〜95%」などの設定は、ロジカルエディターではなく、クオンタイズの機能で行っています。

まとめ

ロジカルエディターを使うと、13パートの修正を「条件で絞って、まとめて変える」という流れで進められます。今回使った3つの操作を整理すると、次のとおりです。

  • ベロシティのランダム化:同じ強さの音が並ぶ「ベタ打ち感」を消す
  • Positionの加算:開始位置をずらして、自然な「ため」を作る
  • Lengthの倍率変更:パートの性格に合わせて、音の長さを整える

数値はあくまで、今回のrainy orchestraに合わせたものです。曲や音源が変われば、ちょうどよい値も変わります。まずは1パートだけ試して、耳で確かめながら調整してみてください。

今は、CC11(エクスプレッション)とCC1(ダイナミクス)の調整に取り組んでいます。

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